第三次月詠聖杯戦争十二日目 朝パート2
12日目 朝 ????
ふと 赤座ユイは目を覚ました。 市民病院に長期入院している彼女が、目を覚ましたとき目に入るのは、病院の無機質な天井である。 あるいは自分のよだれで濡れた枕や、寝坊をした自分を起こしに来た看護婦のはずだった。 しかし彼女が目を覚ました時、視界に入ったのは薄暗い、木張りの天井だった。 ただし見覚えがないわけではない。 (あれ……いつの間に、家に帰って来たんだろ) 病院と同じぐらいに見慣れた、彼女の部屋だった。 西区の赤風寺にある母屋の一室。 夢うつつのままに首を回すと、子供っぽい勉強机や、ぬいぐるみや、部屋の中に座る美女が見えた。 どういうことか考えようとしたが、眠い。 (まあ……もう一回寝よ) 「いやいやいや寝なおさないで下さいよ。病院から浚ってくる時も寝ていたし、どんだけなんですか」 「ふえ……おねえちゃん、だれ?」 「イヴといいます。通りすがりの悪女系お姫様です」 「ええと……」 「突然ですがあなたには人質になってもらいます。というか、なってもらいました。 暴れなければ危害は加えませんが、人質らしい振る舞いを心がけてください」 「えー……ひとじち?」 赤座ユイは寝起き+足りない頭の中で一生懸命考えた。 人質……? いや……でも……ここは自分の部屋なんだから、帰ってきただけなのでは。 「ああ。この赤風寺は遺憾ながら占拠させていただきました。拠点を失ってしまったので」 「ええと……選挙?」 「占拠、占有。まあどっちでもいいですが。既にこの寺院は私の支配下にあります」 「おばーちゃんは……」 「穏便に退去願いました」 「……そっかー。よかった」 「ちなみにその『よかった』はどういう意味ですか?」 「? おばーちゃんが無事でよかったなーって」 「そうですか」
GM : ユイの現状です。
クレダ : はい。
GM : では夢をどうぞ。 ザ ザザ ザザ セイバー: 赤い。 目の前の景色が、赤い。 真っ赤だ。 『……ん。何故、此処に居るのであるか?マスター』
クレダ : 「へ? いや、何故って…。ただ寝ただけで、変なことは何もしてないですけど」
セイバー: 『あぁ、つまり、これが噂に聞く夢による精神リンクというものであるか。 召喚されてから、全くもって無いからそんなのただの間違いだと思っていたである』
クレダ : 「こっちは、たぶん精神リンク自体はずっと体験してましたけどね…」 かくかくしかじか、とこれまでのことをかいつまんで話します。 時々は話してたと思うけれど。改めて、ね。
セイバー: 『ほう、そんな事があったのであるか』
クレダ : 「昨日だけは助かりましたよ。時間を有効活用できました。1日が24時間あることに感謝しましたね。 お姫様…でしたっけ? 彼女にもお世話になりましたし。何かお礼ができればいいんですけれど」
セイバー: 『それは良かったである。しかし、まぁ、なんであるな』 じゃぶり、と。セイバーが身じろぎすると、音がする。
クレダ : 「?」(ちらっと目をやってみますけど)
セイバー: 足元も真っ赤だ。セイバーも血まみれだ。所々に浮かぶのは、島ではない。全て何かの骸だ。 『この世界(きおく)には、あんまり来て欲しくなかったであるな』
クレダ : (…ひどい匂い) 鉄くさい。それも、ただの金属臭ではなく、“生臭い”鉄の匂いがする。 湿っぽく、重たく、鼻をくすぐる香りだ。 「普段、隠し事なんて何もなさそうに見えるあなたが、そんなことを言うなんて」
セイバー: 『隠しては無いであるぞ?前々から言ってた通り、拙には殺すことしかできなかったわけであるからな。 拙にはやっぱり、こういう事をしてきた記録しかないのである』
クレダ : …とはいえ、オシドリ夫婦でも、隠し事をすることだってある。 相手のすべてを知ることが、必ずしも幸せに繋がるとは限らない。 「うん。あなたはそのために産みだされた…んでしたね」 (これが、セイバーの過去)
セイバー: 『うむ』 短く答えて。
クレダ : 「…でも、これは記憶なんでしょう? 過去、なんでしょう?」
セイバー: 『そうであるな。が、沢山殺したである。マスター』
クレダ : 「ええ。昔あったことなんて、どうでもいい…とはいえない。 自分の過去から…、自分自身からは、絶対に逃げられない。 確かに、そうですね」 犯した罪の分だけ罰が下される。それが道理。
セイバー: 『あぁ、そうであるが、そうでないである』
クレダ : 「そうじゃない…って?」
セイバー: 『無垢で、誰も傷つけるものが居なくて、そんな夢の世界に、 子供の世界に迷い込んだ大人というのは、どう映るのであろうな』
クレダ : 「そうですねぇ…ばい菌みたい…とか?」
セイバー: 『そうなのであろうなぁ。きっと。理解できない、汚い、害である、と認識されるのであろうな』
クレダ : 菌としては、ただ単に、生きているだけなのに。進入された人体は、異物として排除しようとする。 まあ…、ただ生きてる過程で、しばしば人体を害するわけだけれども。
セイバー: 『あの世界は、人の世界に近いのである。ふとした拍子に、紛れ込んでしまう程』
クレダ : 「悲しいことですね。生きてるって。 その紛れ込んだもの…、つまり私とかを排除するのがあなたの役割、なんですか?」
セイバー: 『少し違うであるな。拙がするのは、殺す事である。排除するのは、女王の仕事である』
クレダ : 「ああ…あの人ですか」
セイバー: 『あの世界では、精神の有り様で姿形が変化するのである。 無垢に近ければ、人に。捩れていればいるほど、怪物に』
クレダ : 「……私って、そんなに考え方が幼かったんだ……」
セイバー: 『最終的な結果である。あの世界に迷い込み、暴虐を働き、己の欲望のまま振舞うのなら。 あの女王がギロチンにかけ、飛ばされるのは【此処】である』
クレダ : 「…いや。もしかしたら…私は、気づかないうちに怪物になっていたかもしれない。 自分で自分の姿を見ることはできない。だから…知らず知らずのうちに、 怪物になっていて、それに気づいていなかっただけなのかも…」 この背中に、人ではありえない奇妙な何かがついているのかも… そんな、不気味な想像をしてしまって、身震いをします。
セイバー: 『まぁ、拙が見る分にはマスターは人間である。 だから、女王にギロチンにかけられ、人の世界に戻れたのであろう?』
クレダ : 「ええ、そうです」 といって、ぺたぺた自分の背中をさわったり、後ろを振り返ったりします。 (羽ならまだいいけど、触手とかやめてほしい)
セイバー: 『拙の仕事は、そうやって飛ばされてきた【怪物】と、 【最初から飛ばされるまでもなく怪物であるもの】を殺す事である』
クレダ : 「へえ…そうだったんですか」 ようやくセイバーたちの関係がわかってきた。
セイバー: 骸は多い。山と積もり、血の河が流れている。それは、それほど【怪物】が多かったということを指し示す。 あの世界は、悪意ある者に対し、あまりにも無力に見える。誰も抵抗しない。 そんな力が無い。目に見えるのは、力を持たない子供ばかり。 あの世界を丸ごと全部夢だと信じ、大人の力を揮って好き勝手した者の数を、この世界(きおく)は示している。
クレダ : それを代行していたのが、セイバーであり、女王だった、と。 「下手をすると、自分もあの死体の一員にされてたかもしれないわけですね。 どんなきれいごとを言っても、私だって大人の一人ですから」
セイバー: 『何だかんだでマスターは優しいであるからな。多分、それは無いである』
クレダ : 「ありがとう。でも、私達が傷つけあうこともなく、今までうまくやってこられたのは。 やっぱり、すばらしいことだと思います」
セイバー: 『そうであるな。拙も、マスターがマスターで良かったと思っているのである』
クレダ : 「はい。私もです」 願わくば、この関係がいつまでも続けばいいと思う。 でも、失われないものなんてない。…あるとすれば、それは神さまの領分だ。
セイバー: 『しかし、それでもこの世界(きおく)はあまり見れたものでもないであろう』
クレダ : 「……」
セイバー: ざぱん、とクレダに背を向けて。
クレダ : 「はっきり言ってしまえば、死体の山を見たがる人はちょっと危ないと思いますよ」 無理や無茶を続けていれば、いつかそのゆがみがすべてを崩してしまうように。 セイバーも、いつか自分の犯した罪を罰せられる日が来るのかもしれない。
セイバー: 『で、あろうな。さ、早く目を覚ますのである。 此処から続くのは、ただ拙がただ、【怪物】を殺し続ける場景だけである』 ざぱり、ざぱり。
クレダ : 「もー…そんなに自分から壁つくってどうするんですか」
セイバー: 『見ていきたいのであるか?』
クレダ : 「そこまでは言わないですけどね。 …理解できないものすべてを排除するほど、人間は、頭が悪くはないですよ。 それが、想像力です。他人の痛みを、知覚はできなくても、想像して、共感することができる。 それって、人間のいいところだと思います」
セイバー: 『うむ。だから、見ても多分、気分が悪くなるだけである。 これ以上悪くしたら、この後の行動にも差し支えがあろう?』
クレダ : 「そうですね。ここにずっといたら、血のにおいに慣れてしまいます。ね、セイバー」
セイバー: 『なんであるか?』
クレダ : 「出ましょう。こんなところ。 いつまでもこんなことを続けてたら、たとえ真人間でもおかしくなっちゃいますよ」
セイバー: 『まぁ拙の場合おかしくなったからマスターのサーヴァントになったと言えなくもないが、 そもそも此処拙の記憶であって、マスターが夢から覚めれば自動的に此処も無くなるであるぞ?』
クレダ : 「うん…。そしてあなたはいつか、この場所へ戻ってくる。そうじゃないですか?」
セイバー: あぁ、やっぱり覚えてないのであるな(笑)
クレダ : 今のセイバーが元から切り離されてる、とかいう話でしたっけ?
セイバー: 『いやぁ、多分、【拙】は消えてしまう可能性が大きいであるから、此処にも戻って来れないかもしれないであるなぁ』 今の拙は、自分の存在理由・生誕理由を否定して、姫(アリス)に成長して欲しい、 大人になって欲しい、外の世界を見て欲しいと願っているわけである。 つまり、システムがバグってるわけである。 サーヴァントとして呼び出されてる今の拙はバグが抽出されてるわけであるな!
クレダ : 「なら、こう言い換えます。セイバー。 …いえ、ジャバウォッキーの騎士は、いつまでもこの場所で剣を振り続けるのでしょう?」
セイバー: 『まぁ、そうであるな。【拙】が消えても、次のジャバウォッキーの騎士が改めて作り出されるだけだからして』
クレダ : 「私は信じたいことがあるんです」
セイバー: 『何であるか?』
クレダ : 「生きることは、悪いことではない、って。 絶対に、絶対に、絶対に絶対に絶対に、悪いことなんかじゃないって。 …今、あなたが私としゃべれているのが、たとえ単なるシステムエラーだとしても。 その可能性がジャバウォッキーの騎士にあることを、意味の無い無駄なことだとは思いたくない。 過去とか…罪とか。そんなの、どうでもいいから」 もうすぐ、消えてしまう運命ならば。 「今だけは生きて欲しい。ちゃんと。自分として。 それができるのは、きっとすばらしいことだから」
セイバー: 『大丈夫である』 がごん、と、篭手で胸の鎧を叩いて。 『拙は、マスターに沢山のものをもらっているであるからな』
クレダ : 「…そっか」
セイバー: 前に、セイバー自身が言ったように。殺す事だけしかできなかった自分が、守る事ができている。 それだけでも、セイバーは笑って消えていける。それが初めて、自分で選んでできた事だから。 『……さ。もうそろそろ昼であるぞ。早く目を覚ますのである。ユイが待っているであろう?』
クレダ : 「ええ……死んだら許さないですから。約束ですよ。ちゃんと生きてくださいね」 それがきっと守られない約束だと、うすうす感じつつも。
セイバー: 『なぁに。大丈夫である!多分であるが!』
クレダ : 「そこは断言するとこでしょ」
セイバー: いつものように、根拠もなく請け合って。
クレダ : 「せっかく『死んだらいけん! 死んだらいけんよ!!』とかギャグに走るのを我慢してたのに…がっかりです!」 と、まあいつものノリで大騒ぎして。
セイバー: ざぱり、ざぱりと遠ざかるセイバーの、さらにその向こうに、ぽとりと落ちてきた人間が、 みるみる内に怪物に変化していき。それに対して、セイバーが剣を構えた所で。 目が覚める。 『Zzz……Zzz……』
クレダ : 「…はっ」 と飛び起きて、車の天井に頭をぶつけます。 (っていうか背中も痛いし…車の中で寝るもんじゃないですね。) 「ねえセイバ…、…寝てるの?」
セイバー: 『ぐごー……すぴひょろー……む?』
クレダ : (あれ、セイバー、今まで寝たことあったっけ?)
セイバー: 『おお。おはようである、マスター』
クレダ : 「い、違和感がすごい。 いつのまに偽者と摩り替わったんですか。本物を出しなさい本物を」
セイバー: 『正真正銘拙は拙であるぞ?』 ちなみに、いつもの兎の着ぐるみ姿であるな。
クレダ : 「え、いや、だって。寝ないでしょ? サーヴァントって」
セイバー: 『まぁ正確には必要が無いであるな』
クレダ : 「寝ようと思ったら寝られるんだ…へぇ〜…」 じゃあせっかくだからHPとMPを回復させてくださ…すいません冗談です。
セイバー: 『たしかに寝ようと思っても寝れるのであるが、 拙の場合、多分修正がかかっているのでないかと思うのである』
クレダ : 「修正?」
セイバー: 『うむ。拙が【拙】で居られる時間に、であるな』
クレダ : …エラー修正?
セイバー: うむ。
クレダ : うわぁ。オワタ
セイバー: 『まぁ、この戦争中は大丈夫である』
クレダ : 「えぇ〜…。ほんとですか?」 まあ、人間だって同じようなものかもしれないですが。
セイバー: 『心配せずとも、きっちり守るから心配無用であるぞ、マスター!』 ごん、と篭手で胸の鎧を叩くのである。
クレダ : 「いや、その点は最初から疑ってないですけどね…まあいいです。 だいぶ遅いけど、朝食にして、終わったらさっそく宝具作りと召喚魔方陣の準備をしましょうか。 いつだって時間は有限ですから」
セイバー: 『そうであるな』
GM : というわけで終わり?
セイバー: であるな。
クレダ : はい。